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不思議の国のアリス (Alice’s Adventures in Wonderland)
  • Текст добавлен: 15 марта 2021, 11:30

Текст книги "不思議の国のアリス (Alice’s Adventures in Wonderland)"


Автор книги: Lewis Carroll


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11. タルトをぬすんだのはだれ?

 ハートの王さまと女王さまは、ついたときには玉座にすわっていました。そのまわりには、大群衆が集まっています― ―いろんな小さな鳥や動物、さらにはトランプひとそろい。ジャックが王さまたちの前でくさりにつながれていて、その両側に兵隊さんがついています。そして王さまの近くには、白うさぎがいて、片手にラッパ、片手に羊皮紙(ようひし)のまきものをもっています。法廷のまん中にはテーブルがあって、タルトののったおっきなお皿がありました。すごくおいしそうだったので、アリスは見ているだけでおなかがすいてきました― ―「はやいとこ裁判をすませて、おやつをくばってくれないかな!」でもこれはありそうになかったので、ひまつぶしにアリスはまわりのものをなにもかも見ていきました。

  裁判所にくるのははじめてでしたが、本でよんだことはあったので、ほとんどなんでも名前がわかってアリスはとてもとくいでした。「あれが判事ね、おっきなかつらをかぶってるもの」

  ちなみにその判事というのは、王さまでした。そしてかつらの上から王冠をかぶっていたので(どんなぐあいだったか見たければ、この本の最初にある口絵を見てね)、あまり落ち着かなそうで、それがよくなりそうなようすもありませんでした。

  「そしてあれば陪審席(ばいしんせき)。そしてそこにいる十二匹の生き物だけど」(生き物っていうしかなかったんだ、動物もいれば鳥もいたから)「あれがたぶん、陪審員(ばいしんいん)ね」アリスはこの最後のことばを、二三回くりかえしました。ちょっと得意だったのです。だって、こんなに小さくてこんなことばの意味をぜんぶ知ってるなんて、あんまりいないはずだと思ったからで、それはそのとおりでした。でも、ただの「陪審(ばいしん)」でもぜんぜんかまわなかったのですけどね。

 陪審員(ばいしんいん)12人たちは、みんな石板にいそがしくなにか書きつけています。「あれはなにをしてるの? 裁判がはじまってないんだから、なにも書くことないはずでしょう」とアリスはグリフォンにささやきました。

 「自分の名前を書いてんの。裁判が終わるまでにわすれちゃうとこわいと思ってるんだよ」とグリフォンがささやきかえします。

  「馬鹿(ばか)な連中!」とアリスはおっきなけいべつするような声をあげましたが、すぐにやめました。白うさぎが「せいしゅくに!」とさけんだからです。王さまはめがねをかけて心配そうにあたりを見まわし、だれがしゃべっているのかを見ようとします。

 アリスは、陪審員(ばいしんいん)たちが「馬鹿(ばか)な連中!」と書きとめたのがわかりました。まるでそのかたごしに見ているかのようです。なかの一人が「馬鹿(ばか)」と書けなくて、となりにきいているのもわかりました。「裁判が終わるまでに、あの石板はまるでわけわからなくなるだろうなあ」とアリスは思いました。

  陪審員(ばいしんいん)たちの一人が、きしる石筆を使っていました。もちろんアリスは、これががまんできなかったので、法廷をぐるっとまわってそいつのうしろにくると、じきにすきを見つけて、その石筆をとりあげてしまいました。とってもすばやくやったので、かわいそうな陪審員(ばいしんいん)さん(それはあのトカゲのビルでした)はいったいなにがおきたのか、さっぱりわかりませんでした。そこらじゅうをさがしまわったあげくに、その日はずっと、指で書くしかありませんで、これはまったくなんの役にもたちません。石板になんのしるしものこさなかったからです。

  「告知官(こくちかん)、訴状(そじょう)を読み上げるがよい!」と王さま。

 これをうけて、白うさぎはラッパを三回ふきならすと、羊皮紙(ようひし)のまきものをひらいて、こんなものをよみあげました:

*     *     *     *     *

「ハートの女王、タルトをつくる

ある夏の日に

ハートのジャック、タルトを盗み

一つのこらずかっさらう!」

*     *     *     *     *

 「では判決をまとめるがよい」と王さまは陪審に言いました。

 「まだです、まだです!」うさぎがあわてて止めます。「それより先に、たくさんやることがあります!」

  「最初の証人をよべ」と王さま。そして白うさぎがラッパを三回ふきならして、さけびました。「証人だい一号!」

  最初の証人は、あの帽子屋さんでした。片手にお茶わん、片手にバターパンをもっています。「国王陛下、こんなものをもってきやして、すまんこってす。でもよばれたときに、まだお茶がすんでなかったもんでして」

 「すんでいたはずだが」と王さま。「いつからはじめた?」

 帽子屋さんは三月うさぎのほうを見ました。三月うさぎは、ヤマネとうでをくんで、あとからついてきたのです。「たしか三月の十四日だった、と思うけど」

 「十五だよ」と三月うさぎ。

 「十六」とヤマネ。

 「書いておけ」と王さまは陪審にいいました。そして陪審員は、ねっしんに、石板に日づけを三つとも書いて、それからそれを足して、そのこたえをこんどはシリングとペンスになおします。

  「帽子をとりなさい」と王さまが帽子屋さんにもうします。

 「こいつぁあっしのもんじゃございませんで」と帽子屋さん。

 「ぬすんだな!」と王さまはさけび、陪審のほうを見ると、みんなすぐにそのじじつをメモします。

  「こいつぁ売りものでさぁ。自分の帽子なんかもってませんや。なんせ帽子屋、ですからね」と帽子屋さんは説明します。

 ここで女王さまがめがねをかけて、帽子屋さんをじっとながめました。ながめられた帽子屋さんは、青ざめてヒクヒクみぶるいしてます。

  「証言をするがよい。それと、そうビクビクするな、さもないとこの場で処刑させるぞ」

  こういわれても、証人はちっともげんきになりません。あいかわらずもじもじしながら、おどおどと女王さまのほうを見て、混乱しすぎてバターパンのかわりにお茶わんのほうをかじってしまいました。

  ちょうどこのとき、アリスはとっても変な気分になりました。いったいなんだろうとずいぶん首をかしげたのですが、やがてなんだかわかりました。またおっきくなりだしてるのです。最初は、立ってここを出ようかと思いました。でもやっぱり考え直して、い場所があるうちはここにいようと決めました。

  「そんなぎゅうぎゅう押すなよぅ。息ができないよぅ」ととなりにすわってたヤマネがいいました。

  「しょうがないでしょう。おっきくなってるんだから」とアリスはとってもよわよわしくいいました。

  「なにもこんなところでおっきくならなくても」とヤマネ。

  「バカなこといわないでよ。あなただって、おっきくそだってるんですからね」アリスはもうちょっと強くいいました。

 「うん、でもぼくはふつうにおっきくなってるんだからね。そんなとんでもないはやさじゃないよ」そしてヤマネは、プンプン怒って立ちあがると、法廷をよこぎって反対側にいってしまいました。

 この間ずっと、女王さまは帽子屋を見つめるのをやめませんで、ヤマネが法廷をよこぎったと同時に廷吏の一人に申します。「前回のコンサートの歌い手一覧をもってまいれ!」これをきいて、ひさんな帽子屋さんはガタガタふるえすぎて、くつが両方ともゆすりぬげてしまいました。

  「おまえの証言をのべよ」と王さまは怒ったようにいいます。「さもないと、ビクビクしているかにかんけいなく、おまえを処刑させるぞ」

 「あっしは貧しいものでして、国王陛下」と帽子屋さんはふるえる声できりだしました。「― ―そしてお茶もまだで― ―もう一週間ほどもなんですが― ―んでもって、バターパンもこんな心もとなくなってきて― ―それでキラキラの木が― ―」

  「キラキラのなんともうした?」と王さま。

  「ですから木からはじまったんでして」と帽子屋さんはこたえます。

 「キラキラがキではじまっておるのはとうぜんであろうが!」と王さまはきびしく申しわたします。「わしをそこまでうつけ者と思うか! つづけよ!」

 「あっしぁ貧しいもんでして」と帽子屋さんはつづけます。「でもって、それからはなんでもキラキラで― ―でも三月うさぎが言いますに― ―」

 「言ってない!」と三月うさぎがあわててわりこみます。

 「言った!」と帽子屋さん。

 「否認します!」と三月うさぎ。

 「否認しておる。その部分は除外するように」と王さま。

 「まあとにかく、ヤマネが言いまして― ―」と帽子屋さんはつづけてから、不安そうに首をまわして、ヤマネも否認するかどうか心配そうにながめました。が、ヤマネはぐっすりねむっていたので、なにも否認しませんでした。

  「それから、あっしはもっとバターパンを切って― ―」と帽子屋さん。

  「でもヤマネはいったいなんと言ったんですか?」と陪審の一人がききました。

  「それは思い出せません」と帽子屋さん。

 「なんとしても思いだすのじゃ。さもないと処刑するぞ」と王さま。

 みじめな帽子屋さんは、お茶わんとバターパンをおとして、片ひざをついちゃいました。「あっしは貧しいんです、国王陛下」と帽子屋さんは口を開きます。

  「はつげんのなかみは、たしかに貧しいな」と王さま。

  ここでモルモットが一匹、かんせいをあげて、すぐに廷吏(ていり)に鎮圧(ちんあつ)されました。(これはちょっとむずかしいことばなので、どういうふうにやったか説明しようね。おっきなずだぶくろがあって、口にひもがついていてしばれるようになってるんだけど、モルモットはそこに頭からおしこまれて、そしてみんなでその上にすわっちゃうんだ)。

  「いまのは見られてよかったな。よく新聞で、裁判の終わりに『拍手があがりかけたが、廷吏(ていり)によってそくざに鎮圧(ちんあつ)された』ってかいてあるのをよく見かけるけれど、いままでなんのことかぜんぜんわからなかったもん」とアリスは思いました。

  「それで知ってることのすべてなら、下がってよいぞ」と王さまがつづけました。

  「これ以上はさがれませんや、うしろに柵があるもんで」と帽子屋さん。

 「ではすわるがよい」と王さまがこたえます。

 ここでモルモットがもう一匹かんせいをあげて、鎮圧(ちんあつ)されました。

  「わーい、あれでモルモットはおしまいね。これでちょっとましになるかな」とアリスは思いました。

  「それよりお茶をすませたいんで」と帽子屋さんが女王さまを心配そうに見ると、うたい手のいちらん表をよんでいるではありませんか。

 「いってよし」と王さまがいうと、帽子屋はあわてて法廷から出ていって、くつをはくことさえしませんでした。

  「― ―そしてあやつの頭を外ではねておしまい」と女王は廷吏(ていり)の一人に言い足しました。でも帽子屋さんは、その廷吏(ていり)がとびらにつくより先に、すがたを消してしまいました。

  「つぎの証人をよべ!」と王さま。

  つぎの証人は公爵夫人のコックでした。手にはコショウのはこをもっていて、とびら近くの人がいっせいにくしゃみをはじめたので、アリスはそれがだれだか、法廷に入ってくる前から見当がつきました。

  「証言をのべよ」と王さま。

  「やだ」とコック。

 王さまは心ぼそげに白うさぎを見ました。白うさぎは小声でもうします。「陛下、この証人を反対尋問(はんたいじんもん)しなくてはなりませんぞ!」

 「まあどうしてもというのなら、しかたあるまい」と王さまはゆううつそうなようすで言いました。そしてうで組みして、コックにむかってしかめっつらするうちに、目玉がほとんど見えなくなってしまって、そしてふかい声でいいました。「タルトはなにでできておるかな?」

  「コショウ、ほとんど」とコック。

 「とうみつ」とねむたい声がうしろでしました。

 女王さまがかなきり声をあげます。「あのヤマネをふんじばれ! ヤマネの首をちょん切れ! 法廷からたたき出せ! ちんあつしろ! つねれ! ヒゲをちょん切れ!」

  しばらくは、法廷ぜんたいがヤマネをおいだすので、混乱しきっていました。そしてそれがおちついたころには、コックは消えていました。

 「まあよい」と王さまは、いかにもホッとしたようすでもうしました。「つぎの証人をよんでまいれ」そして小声で女王さまにいいました。「まったくおまえ、こんどの証人はおまえが反対尋問(はんたいじんもん)しておくれ。まったくわしゃ頭痛(ずつう)がしてきた!」

  白うさぎがいちらん表をもたもたひらくのをながめながら、つぎの証人はどんな生き物かなと、アリスはまちどおしくてたまりませんでした。「― ―だってこれまではたいしたしょうこはまだ出てきてないんですもん」とアリスはつぶやきました。白うさぎが小さなかんだかい声をめいっぱいはりあげて、つぎの証人の名前を呼んだときに、この子がどんなにおどろいたか、想像できますか? 白うさぎのよんだ名前は:「アリス!」



12. アリスのしょうこ

  「ここです!」とアリスは声をあげ、いっしゅんこうふんしてここ数分で自分がどれほど大きくなったかをすっかりわすれ、あわてて立ち上がりすぎて、陪審席をスカートのはしにひっかけてたおしてしまい、おかげで陪審たちがその下のぼうちょう席に、頭から浴びせられることになってしまいました。そしてみんなベシャッと横になって、アリスは先週うっかりひっくりかえした金魚鉢のようすを、まざまざと思いだしました。

  「あらほんとうにごめんなさい!」アリスはうろたえてさけび、できるだけすばやくみんなをひろいあげました。金魚鉢の事故が頭のなかをかけめぐって、なんだかすぐにあつめて陪審席にもどしてあげないと、みんなすぐに死んじゃうような気がばくぜんとしたのです。

  王さまがとてもおもおもしい声でもうします。「陪審員が全員しかるべきいちにもどらないかぎり、裁判をすすめることはできない― ―全員、だぞ」と、とても強くくりかえしながら、アリスをにらみつけます。

 陪審席をみてみると、あわてていたせいで、トカゲをさかさにつっこんでしまったのがわかりました。かわいそうなトカゲはかなしそうにしっぽをふって、まるでみうごきができずにいたのです。すぐに出してあげて、ちゃんともどしてあげました。「でもべつにたいしたちがいじゃないと思うけれど。あのトカゲなら、さかさだろうと裁判にはまるっきりえいきょうしないと思う」とアリスは考えます。

  陪審たちが、ひっくりかえされたショックからすこし立ちなおり、石板と石筆がみつかってかえされると、みんなすぐにこの事故のけいかを、こまごまと書きつけはじめました。ただしトカゲだけはべつです。トカゲはショックがつよすぎて、口をぽかーんとあけて法廷の屋根を見あげながら、すわっているだけでした。

 「このいっけんについて、なにを知っておるかね?」王さまはアリスにききました。

 「なんにも」とアリス。

  「なにもまったく?」と王さまがねんをおします。

 「なにもまったく」とアリス。

 「これはきわめて重要(じゅうよう)じゃ」と王さまはばいしんにむかって言いました。ばいしんたちがこれを石板に書き始めたところで、白うさぎが口をはさみます。「非重要(ひじゅうよう)と、もちろん王さまはいわんとしたのです」その口ぶりはとってもそんけいがこもっていましたが、でも言いながら王さまにむかって、しかめっつらをして変な顔をしてみせています。

 「非重要(ひじゅうよう)じゃ、もちろんわしのいわんとしたのは」と王さまはあわてて言いました。そしてそのあとで「重要(じゅうよう)― ―非重要(ひじゅうよう)― ―重要(じゅうよう)― ―非重要(ひじゅうよう)― ―」と小声でぶつぶつつぶやいて、どっちのことばがしっくりくるかを決めようとしてるみたいでした。

 陪審(ばいしん)のなかには「重要(じゅうよう)」と書いたのもいたし、「非重要(ひじゅうよう)」と書いたのもいました。アリスは石板をのぞきこめるくらい近くにいたのです。「でもどうだっていいや」と思いました。

 このとき、しばらくノートにいろいろねっしんに書きつけていた王さまが「せいしゅくに!」とかなきり声をあげて、ほうりつ書をよみあげました。「規則だい四十二番。身のたけ1キロ以上のものは、すべて法廷を出なくてはならない」

  みんなアリスのほうを見ました。

 「あたし、身長一キロもないもん!」とアリス。

 「あるね」と王さま。

 「二キロ近くあるね」と女王さま。

  「ふん、どっちにしても、あたしは出ていきませんからね。それに、いまのはちゃんとした規則じゃないわ。いまでっちあげただけでしょう」

 「ほうりつ書で一番ふるい規則じゃ」と王さま。

 「だったら規則一番のはずだわ」とアリス。

  王さまはまっさおになり、ノートをあわててとじました。そして陪審にむかって小さなふるえる声で「判決を考えるがよい」ともうしました。

 「まだしょうこが出てまいります、おねがいですから陛下」と白うさぎがあわてて飛び上がりました。「ちょうどこのかみきれが手に入りましたのです」

  「なにが書いてあるのじゃ?」と女王さま。

  「まだあけておりませんで」と白うさぎ。「でもなにやら手紙のようで。囚人が書いたもののようです― ―だれかにあてて」

 「そうだったにちがいない。ただし、だれにもあてていないかもしれないぞ、めったにないことではあるがな」と王さま。

 「だれあて?」と陪審の一人。

 「あて先がまったくないのです。じつは、外側にはなにも書かれていないのです」こういいながら、白うさぎはかみをひらいて、つけたしました。「やっぱり手紙ではありませんでした。詩です」

  「囚人の筆跡かい?」とべつの陪審がききます。

 「それがちがうのです。一番なぞめいた部分ですな」と白うさぎ。(陪審たちはみんな、ふしんそうな顔をします。)

 「だれか別人の筆跡をまねたにちがいない」と王さま(陪審たちはみんな、顔がパッとあかるくなりました)。

  「おねがいです、陛下。わたしは書いておりませんし、だれもわたしが書いたとは証明できないはずです。最後にしょめいもないじゃないですか」とジャック。

  「しょめいしなかったのなら、なおわるい。きさまはまちがいなくなにかをたくらんでおったろう。さもなければ、正直者としてちゃんとしょめいをしたであろうからな!」と王さま。

 これにはあちこちではくしゅがおこりました。この日、王さまが言ったはじめての、まともにかしこいことだったからです。

  「これであやつのゆうざいが証明された」と女王さま。

  「ぜんぜんそんな証明にはならないわ!」とアリス。「だいたいみんな、なにが書いてあるかもまだ知らないくせに!」

 「読むがよい」と王さま。

 白うさぎはめがねをかけます。「どこからはじめましょうか、陛下?」

 王さまはおもおもしくもうします。「はじめからはじめるがよい。そして最後にくるまでつづけるのじゃ。そうしたらとまれ」

 白うさぎが読みあげた詩は、こんなものでした:

*     *     *     *     *

「きみが彼女のところへいって、

ぼくのことを彼に話したときいた:

彼女はぼくをほめてはくれたが、

ぼくが泳げないといった。

彼はみんなにぼくが去っていないと報せた

(これが事実なのはわかっている):

彼女がこの件を追求したら、

きみはいったいどうなる?

ぼくは彼女に一つやり、みんなはかれに二つやり、

きみはぼくらに三つ以上くれた:

みんな彼からきみへもどった、

かつてはみんなぼくのだったのに。

もしぼくか彼女がたまさか

この事件に巻き込まれたら

彼はきみにかれらを解放してくれという、

ちょうどむかしのぼくらのように。

ぼくの考えではきみこそが

(彼女がこのかんしゃくを起こす前は)

彼とわれわれとそれとの間に

割って入った障害だったのだ。

彼女がかれらを一番気に入っていたと彼に悟られるな

というのもこれは永遠の秘密、

ほかのだれも知らない、

きみとぼくだけの秘密だから」

*     *     *     *     *

 「これまできいたなかで、もっとも重要なしょうこぶっけんじゃ」と王さまは、手もみしながらもうします。「では陪審は判決を― ―」

  「あのなかのだれでも、いまの詩を説明できるもんなら、六ペンスあげるわよ」(アリスはこの数分ですごく大きくなったので、王さまの話をさえぎっても、ちっともこわくなかったんだ)「あたしはあんな詩、これっぽっちも意味はないと思うわ」

  陪審(ばいしん)はみんな、石板に書きつけました。「この女性はあんな詩、これっぽっちも意味はないと思う」でもだれもそれを説明しようとはしません。

 「これっぽっちも意味がないなら、いろいろてまがはぶけてこうつごうじゃ、意味をさがすまでもないんじゃからの。しかしどうかな」と王さまは、詩をひざのうえにひろげ、かた目でながめてつづけます。「どうもなにかしら意味はよみとれるように思うんじゃがの。『― ―泳げないといった― ―』おまえ、泳げないじゃろ?」と王さまはジャックのほうをむきます。

  ジャックはかなしそうに首をふりました。「泳げそうに見えます?」(たしかに見えなかったね、ぜんしんがボールがみでできていたもの)。

  「いまのところはよいようじゃな」と王さまは、詩をぶつぶつつぶやきながら、先をつづけます。

「『これが事実なのはわかってる』― ―これはもちろん陪審じゃな― ―『ぼくは彼女に一つやり、みんなはかれに二つやり』― ―なんと、これはこやつがタルトでしでかしたことではないか― ―」

 「でも、『みんな彼からきみへもどった』ってつづいてるじゃないの」とアリス。

  「ほうれ、そこにもどっておるではないか!」と王さまは勝ちほこって、テーブルのタルトを指さしました。「明々白々ではないか。しかし― ―『彼女がこのかんしゃくを起こす前』とは― ―つまよ、おまえはかんしゃくなど起こしたことはないと思うが?」と王さまは女王さまにもうしました。

 「一度もないわ!」と女王は怒り狂って、あわせてインクスタンドをトカゲに投げつけました。(かわいそうなビルは、あれから一本指で石板に書くのをあきらめていました。なんのあともつかなかったからです。でもいまや急いでまた書きはじめました。自分の頭をつたいおちてくるインキを、なくなるまで使ったのです)

 「ではこの詩があてはまらなくてかんしゃ(く)しよう」といって王さまは、にっこりと法廷を見まわしました。あたりはしーんとしています。

 「しゃれじゃ!」と王さまが、むっとしたようにつけたしますと、みんなわらいました。「では陪審は判決を考えるように」と王さまが言います。もうこれで二十回目くらいです。

  「ちがうちがう! まずは処刑― ―判決はあとじゃ!」と女王さま。

 「ばかげてるにもほどがある!」とアリスが大声でいいました。「処刑を先にするなんて!」

 「口をつつしみおろう!」女王さまは、むらさき色になっちゃってます。

 「いやよ!」とアリス。

 「あやつの首をちょん切れ!」女王さまは、声をからしてさけびます。だれも身動きしません。

  「だれがあんたたちなんか気にするもんですか!」とアリス(このときには、もう完全にもとの大きさにもどってたんだ)「ただのトランプの束のくせに!」

  これと同時に、トランプすべてが宙にまいあがって、アリスのうえにとびかかってきました。アリスはちょっとひめいをあげて、半分こわくて半分怒って、それをはらいのけようとして、気がつくと川辺によこになって、おねえさんのひざに頭をのせているのでした。そしておねえさんは、木からアリスの顔にひらひら落ちてきた枯れ葉を、やさしくはらいのけているところでした。

 「おきなさい、アリスちゃん! まったく、ずいぶんよくねてたのね!」

 「ね、すっごくへんな夢を見たの!」とアリスはおねえさんに言って、あなたがこれまで読んできた、この不思議な冒険を、おもいだせるかぎり話してあげたのでした。そしてアリスの話がおわると、おねえさんはアリスにキスして言いました。「それはとってもふうがわりな夢だったわねえ、ええ。でもそろそろ走ってお茶にいってらっしゃい。もう時間もおそいし」そこでアリスは立ちあがってかけだし、走りながらも、なんてすてきな夢だったんだろう、と心から思うのでした。

 でもおねえさんは、アリスがいってしまってからも、じっとすわってほおづえをつきながら、夕日をながめつつアリスとそのすばらしい冒険のことを考えておりました。するとやがておねえさんも、なんとなく夢を見たのです。そしておねえさんの夢は、こんなぐあいでした。

  まず、おねえさんは小さなアリス自身のことを夢に見ました。そしてさっきと同じように、小さな手がこちらのひざのうえでにぎりしめられ、そして明るいいきいきとした目が、こちらの目をのぞきこんでいます― ―アリスの声がまざまざときこえ、いつも目にかぶさるおちつかないあのかみの毛を、へんなふり方で後ろに投げ出すあのしぐさも見えます― ―そしてそれをきくうちに、というかきいているつもりになるうちに、おねえさんのまわりがすべて、妹の夢の不思議な生き物にいのちをふきこむのでした。

 白うさぎが急ぐと、足もとで長い草がカサカサ音をたてます― ―おびえたネズミが近くの池の水をはねちらかして― ―三月うさぎとそのお友だちが、はてしない食事をともにしているお茶わんのガチャガチャいう音が聞こえます。そして運のわるいお客たちを処刑しろとめいじる、女王さまのかなきり声― ―またもやぶた赤ちゃんが公爵夫人のひざでくしゃみをして、まわりには大皿小皿がガシャンガシャンとふりそそいでいます― ―またもやグリフォンがわめき、トカゲの石筆がきしり、鎮圧されたモルモットが息をつまらせる音があたりをみたし、それがかなたのみじめなにせウミガメのすすり泣きにまじります。

  そこでおねえさんはすわりつづけました。目をとじて、そして自分が不思議の国にいるのだと、なかば信じようとしました。でも、いずれまた目をあけなくてはならないのはわかっていました。そしてそうなれば、まわりのすべてがつまらない現実にもどってしまうことも― ―草がカサカサいうのは、風がふいているだけだし、池はあしがゆれて水がはねているだけ― ―ガチャガチャいうお茶わんは、ヒツジのベルの音にかわり、女王さまのかなきり声は、ヒツジかいの男の子の声に― ―そして赤ちゃんのくしゃみ、グリフォンのわめきなど、いろんな不思議な音は、あわただしい農場の、いりまじったそう音にかわってしまう(おねえさんにはわかっていたんだ)― ―そして遠くでいななくウシの声が、にせウミガメのすすり泣きにとってかわることでしょう。

 最後におねえさんは想像してみました。この自分の小さな妹が、いずれりっぱな女性に育つところを。そして大きくなってからも、子ども時代の素朴で愛しい心をわすれずにいるところを。そして、自分の小さな子どもたちをまわりにあつめ、数々の不思議なお話でその子たちの目を、いきいきとかがやかせるところを。そのお話には、ずっとむかしの不思議の国の夢だって入っているかもしれません。そして素朴なかなしみをわかちあい、素朴なよろこびをいつくしみ、自分の子ども時代を、そしてこのしあわせな夏の日々も、わすれずにいるところを。



訳したやつのいろんな言い訳

 いやあ、ほかならぬこの本について、いまさら何かぼくがつけくわえることがあるかね? まあいちおう、さくしゃともとの本のことは書いておこうか。

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 この本を書いたのは、ルイス・キャロルという人だけれど、これはペンネーム。本名はチャールズ・L・ドジソンといって、十九世紀の前半くらいにイギリスの数学の先生だった人だ。この人は、ロリコンのへんたいで、ちっちゃな女の子をはだかにして写真をとるのがだいすきだった。いまならカメラこぞうとかいわれる人になったかもしれないね。

 このお話は、1832年に出版された。もとは近所の三人姉妹の女の子たちにせがまれて、ドジソン先生がその場の思いつきででっちあげたお話だ。アリスというのも、その女の子たちの一人。一番下の妹だった。お話のなかに出てくる「ダイナ」というねこも、この子たちがほんとうに飼っていたねこの名前なんだって。それがおもしろかったので、そのまま本にして出した。その後、ちょっと書き直したところもあるらしいけれど、まあほとんど変わっていない。それがベストセラーになって大評判になって… …そしていままでつづいている。

 それともう一つ、このお話にとって決定的だったのが、ここにも入れたイラストだ。ルイス・キャロルは「アリス」をちょっと書き直している、とさっき書いた。何度めかの書き直しで出版したときに、イラストを描いたのがジョン・テニエルという人だ。そして人がかいたこのイラストは、どういうわけかアリスという子のイメージを完全にきめてしまった。じつはこのアリス、じっさいにこのお話を最初にきいた、三人姉妹のアリス(つまりほんとのモデル)とはぜんぜん似ていないんだって。でも世界中の人が、「アリス」といって思いうかべるのは、このイラストのイメージだ。ちがったイラストをつけようとした人もいっぱいいる。でも、テニエルをしのぐものは一つもない(足もとに及ぶものさえない)。ディズニーがこれをアニメにしたんだけれど、そのときもこのテニエルの絵に完全にえいきょうされているし、金子国義という日本でちょっと有名な画家が、アリスが大好きで自訳自挿画のアリス本を先日出したんだけれど、そのイラストもテニエルの呪縛からは逃れられていない。

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 もともと子ども向けのお話ではあるんだけれど、このお話はなんだかみょうに、おとなたちに人気が出ちゃった。この「アリス」をつつきまわしていろんな出まかせや思いつきをいう人はたくさんいる。まあ出まかせやおもいつきにも、おもしろいの、つまんないのといろいろある。

 たとえばぼくたちのいるこの宇宙は、どんどんふくらんでいることがわかっているんだけれど、このお話でアリスがのびたりちぢんだりするのは、その宇宙のぼうちょうと似てるじゃないか、とかね。こういうたとえばなしは、人によってはおもしろいな。

 あと、大人になると、人間はとてもエッチになるので、のびたりちぢんだりというとみんなすぐにおちんちんのことを考えちゃうのだ(ああ、大人のおちんちんはのびたりちぢんだりするんだ。でも、みんなそれをはずかしいことだと思っているので、お父さんとかにきいたりしないほうがいいよ)。棒みたいなものが出てくると、それもじつはおちんちんなんじゃないか、と思ったりする。あるいは女の子は、おちんちんのかわりにわれめがついているので、すきまとかわれめとか出てくると、みんな女の子のわれめじゃないかな、と思ったりするんだ。そういうことを考えすぎて頭がおかしくなっちゃって、それで「アリス」をすみからすみまでさがして、棒だの穴だのわれめだのをかぞえてよろこんでる人たちも、ずいぶんいっぱいいるんだ。棒は78本あるんだって。バカだね。

 なぜこれが、大人に人気があるのかは、じつはよくわからない。わからないので、それをいっしょうけんめい考えているような、これまたひまな人もたくさんいる。こういう人たちのいうことは、まちがいなしにとってもくだらないので、あまりまじめにきいたりしないほうがいいよ。ひとは、なにかを見ると、ついつい意味を考えちゃうんだ。特にどっかで見たようなものを見かけると、なんか理由があってそれがそこにあったんだろう、とおもってしまう。

 たとえば変な夢を見ると、それがときどきずっと気になることがある。その夢に、なんか意味があるような気がすることがある。夢の中で、満員電車のむこうのほうにお父さんがいて、にこにこしてこっちをじっと見ている。でも、そのお父さんには影がない。満員電車なのに、どうして影がないのがわかるんだろう。でもわかる。そしておとうさんはずっとぼくを見ている。ぼくはそんな夢をみたことがある。すると起きてからも考えてしまうんだ。あのときお父さんは、なぜにこにこしていたんだろう、なぜ影がなかったんだろう、と。でも実は、それはぼくが頭の中でこしらえたお父さんの姿で、ほんとのお父さんじゃない。だから「なぜ」なんて理由があるわけがないんだ。でも気になる。

 「アリス」もそれと同じだ。ときどきみんなが、ふと考えて、そのままわすれてしまうような変なおもいつきが、ここにはいっぱい入っている。それでぼくたちは、それになんか意味があるように思ってしまう。でも、ほんとはそんな意味はないのかもしれない。そんなものを考えても、しょうがないのかもしれない。そしていろいろ考えて「わかった!」と思っても、ほんとにそれが正しいかどうかはわからない。夢と同じで、あなたがそういうものをかってに頭の中で作っちゃっただけかもしれない。そしてルイス・キャロルはもう死んじゃってるし、だからきくわけにもいかないので、それはいつまでたってもわからないままだ。

 ルイス・キャロルも、たぶんわからなかったんだろう。夢をなんとなく見るのと同じで、これもなんとなく書いちゃったんだろうと思う。あるいはときどき、なんだかみょうに調子よくじょうだんをポンポン思いつくことがあるだろう。それと同じで、キャロルも調子がよかっただけなのかもしれない。調子がとってもよかったもんで、このあとルイス・キャロルはこのお話のつづきを書いた。それが『鏡の国のアリス』だ。これは、この『不思議の国のアリス』の3.1415倍くらいへんてこで、不思議で、わけのわからない、でも(いや、だからこそ)おもしろくてすてきなお話なんだ。これはそのうちまたぼくが訳すけど、時間はこれよりずっとかかるだろう― ―いやどうかな、ぼくの調子が出たら、あんがいすぐできるかも。

 そしてそれにつづいて、キャロルは『スナーク狩り』という詩を書いた。これまたわけのわからないじょうだんだらけの、とってもおもしろい詩だ。このときもキャロルは、まだ調子がよかったんだ。

 だけどそのあとでキャロルが書いたのが『シルヴィーとブルーノ』『シルヴィーとブルーノ完結編』というお話だった。ながくて、お説教くさくて、イマイチだ。ところどころ、おもしろい部分もないわけじゃない。でも、この「アリス」みたいなおもしろさはない。キャロルでさえ、自分がなぜこんなおもしろいものが書けたか、わかってなかったんだろう。そして、急に調子が悪くなっちゃったんだろう。それでも、この二つの「アリス」だけで、ルイス・キャロルはたぶんこの先何百年も、わすれられることはないはずだ。

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  このお話は、もう世界中で読まれていて、まあありとあらゆることばにほんやくされているんだ。日本でもずいぶんむかしからほんやくはある。みじかいし、好きな人もたくさんいるのでまあ、うまいの、へたなの、どうしようもないの、といっぱいある。

 ぼくがこれを訳したのは、やっぱり日本で何人目かのアリス訳者になりたかったからだな。いまある訳がそんなに悪いわけじゃない。なかには、アリスをいまの女の子ちっくにしようとしすぎて、がらの悪いスケバン(ふるいね)まがいにしちゃった訳とか、ことばあそびにこだわりすぎて、なんだかとってもわざとらしい、ふしぜんなものにしてしまった訳(柳瀬尚紀の、漢字だらけのおっかないほんやくとかね)もあるけれど、高橋康也の訳とか、矢川澄子の訳とかは、わるくはない。でも、それでもなんだかよどむ。こう、うまく流れないところがある。高橋さんは学者で、矢川さんは詩をかく人だけど、こういう人は自分でいっしょうけんめい考えたりものを書いたりするのがおしごとだ。だから本や紙とばっかりにらめっこをしている。それで、よのなかの人のふつうのしゃべりかたとかは、あんまり知らなかったりする。口にだしたときのひびきと、字に書いて目にみたときの感じとでは、字に書いた方をだいじにしちゃったりする。なーんてことおもって首をかしげてるより、自分で気がすむように訳したほうがはやい。それで訳しちゃった。

 それに、この人たちの訳は、コピーしてお友だちにあげたりしてはいけないんだ。おもしろいな、と思って人にメールで送ってもだめ。この人たちは(ぼくもだけれど)自分が書いたものについて、ちょさくけん、というものを持っている。これははたみたいなもので、「これはわたしがオッケーといわないと人にみせたりあげたりしちゃダメですよ」と書いてあるんだ。だからきみたちがこの人たちの文を勝手に人にあげると、この人たちがそのはたをパタパタとふる。するとそれを見て、おまわりさんがくることになっている。こっそりやればたぶんわからないけれど、でもだからといってやっていいわけではない。

 じつは、はたを持っているのは書いたり訳したりした人だけじゃない。ふつう、本をつくるときには、いろんな人がいろんなおしごとをする。字がまちがっていないかを確かめる人もいる。イラストをどこにいれようか、とか字の大きさをどのくらいにしようか、とか、決める人もいるし、ひょうしをつくる人もいる。一番読みやすくてきれいになるように、デザインする人もいるし、印刷する人もいるし、本屋さんまでそれを運ぶ人もいる。その人たちみんなが小さなはたをもっている。

 でも、だれかに見せたいな、と思ったとき、いちいち書いた人に「いいですか」ときくのはめんどうくさい。じゅうしょも電話番号もしらないし。それにさいきんでは、みんながはたをふりたがるようになっちゃったもので、いったいだれがはたをもってるのかさえわかんなくなっている。だからぼくは、この文にはそういうはたをつけないことにした。ついでにほかの人も、そういうはたをつけちゃいけないことにした。これでみんな、もっときらくに文がつかえるようになる、はずだ。

 それにこの訳は、電子ファイルにもなっているんだ。いままでみたいに紙の本でしか読めないと「三月うさぎはどこにいたかな」と思ってもさがすのがたいへんだ。電子ファイルにしておくと、コンピュータがそういうことをやってくれる。そんなべんりさもあるんだ。

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  どんなにべんりで、じゃまなはたがなくても、訳したものがまちがってたり、へたくそだったりしたらどうしようもない。でもぼくは、いままで日本でほんやくをしてきた人の中では、かなり上手なほうなので、あまり心配しなくていい。なかには、ニンジンがきらいな子がいるのと同じように、ぼくの訳がどうしても好きになれない人もいるし、それよりぼくという人間がきらいな人もいる。でも、そういう人がいっしょうけんめいさがしても、この訳でホントにまちがってるところはなかなかみつからないだろう。ぼくはこのお話をなんども読んで、かなりよく知ってるんだもの。

 ただしさっきもいったように、これはもう何度もほんやくされてるお話だ。だからいままでの人たちも、もうずいぶんいろいろくふうをしてきた。だもんで、ぼくがやったからといって、そんなすっごく訳がよくなったりはしていない。いまある訳としても、ぶっちぎりの一番じゃなくて、二ばんとの差はほんのちょっとしかない。

 訳すときには、たいした注意はしていないけれど、ただなるべくアリスの話かたを自然にしようとした。これまでの訳だと、アリスは自分でぶつぶつ言っているときにも、かなりよそゆきのことばをしゃべったりしてる。それってへんだろう。アリスはずいぶんむかしの女の子だから、たしかにちょっと古いしゃべりかたをしているけれど、でもそこ頃の人たちとしてはごくふつうにしゃべってたはず。そのふつうなところをちゃんと出したいな、と思ったわけだ。

 とはいえ、これはちょっとむずかしい。このお話で、アリスは6つくらいだろうけれど、でもじつは最近の日本の高校生でも知らないようなことをたくさん知っている。たとえば最初のところでうさぎの穴を落ちながら、アリスは地球のまん中までどのくらいあるかを、すぐにおもいだせる。あるいはフランス語もちょっとしゃべれちゃったりする。すごいね。むかしの人はいっぱい勉強したんだ。だからふつうに訳すと、すごくものしりな高校生もどきがしゃべってるみたいに聞こえちゃうんだ。そこはなんとかくふうして、小学校5年生くらいの口ぶりにはしたつもりだけれど、それでもかなりませた感じになる。でも、これでせいいっぱいなのでゆるしてね。

 そしてそれ以外のところも、だれかが女の子に読んできかせている、という感じをだいじにしようとしている。ふつう、こういうのを読んであげるときは、ふつうに読みながら、ちょっとむずかしいところや説明なんかを、ちょっと口ぶりを変えてはさんだりする。文中でかっこ()に入っているのがそういうところだ。そういうところで口ぶりを変える感じもだそうとした。

 で、それはうまくいってるかな? ぼくはわれながら、なかなかじょうずにできたと思っているけれど、それはみんなが自分で読んできめてほしい。「こうしたほうがいいよ」と思ったら、それをぼくに教えてくれてもいいし、あるいはこの文をもとにして、自分流の訳をつくったり(そのときは、ぼくのをもとにしてるってことは書いておくようにね)、それともこんな訳なんか完全にうっちゃって、まっさらな訳を自分でやってみたりする人が、もっともっと出てくるといいな。

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  みじかくすませるつもりが、えらく長くなってしまいました。では、次の『鏡の国のアリス』でまたお目にかかろう。じゃあね。


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