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不思議の国のアリス (Alice’s Adventures in Wonderland)
  • Текст добавлен: 15 марта 2021, 11:30

Текст книги "不思議の国のアリス (Alice’s Adventures in Wonderland)"


Автор книги: Lewis Carroll


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8. 女王さまのクロケー場

  お庭の入り口には、おおきなバラの木が立っていました。そこにさいているバラは白でしたが、そこに庭師が三人いて、それをいっしょうけんめい赤くぬっていました。アリスは、これはずいぶん変わったことをしていると思って、もっとよく見ようと近くによってみました。ちょうど近くにきたら、一人がこう言ってるところでした。おい五、気をつけろ! おれをこんなペンキだらけにしやがって!」

 「しょうがないだろ」と五は、きつい口ぶりで言いました。「七がひじを押したんだよ」

 すると七が顔をあげていいました。「そうそうその調子、いつも人のせいにしてりゃいいよ」

 「おまえはしゃべるんじゃない!」と五。「女王さまがついきのうも、おまえの首をちょん切るべきだって言ってたぞ!」

 「どうして?」と最初にしゃべったのが言います。

 「二! おまえにはかんけいない!」と七。

 「かんけい、大ありだよ!」と五。「だから話しちゃうもんね― ―コックに、タマネギとまちがってチューリップの球根をもってったからだよ」

 七はペンキのはけをふりおろして、ちょうど「まあだまってきいてりゃいい気になりやがって― ―」と言いかけたところで、たまたまアリスが目に入りいましたので、いきなり身をとりつくろっています。ほかの二人も見まわして、みんなふかぶかとおじぎをしました。

  「ちょっとうかがいますけど」とアリスは、こわごわきいてみました。「なぜそのバラにペンキをぬってるんですか?」

 五と七はなにもいわずに、二のほうを見ます。二は、小さな声でこうきりだしました。「ええ、なぜかといいますとですね、おじょうさん、ここにあるのは、ほんとは赤いバラの木のはずだったんですがね、あっしらがまちがえて白いのをうえちまったんですわ。それを女王さまがめっけたら、みーんなくびをちょん切られちまいますからね。だもんでおじょうさん、あっしらせいいっぱい、女王さまがおいでになるまえに― ―」このとき、お庭のむこうを心配そうに見ていた五が声をあげました。「女王さまだ! 女王さまだ!」そして庭師三名は、すぐに顔を下にはいつくばってしまいました。足音がたくさんきこえて、アリスは女王さまが見たかったのでふりむきました。

  まずはこん棒を持った兵隊さんが十名。みんな庭師三名とおんなじかたちをしています。長方形で平べったくて、かどから手と足がはえてます。つぎに廷臣(ていしん)たち十名。これはみんな、ダイヤモンドで全身をきかざって、兵隊さんたちと同じく、二名ずつでやってきました。そのあとからは王さまの子どもたち。このかわいい子たちは、手に手をとってたのしそうにぴょんぴょんはねながら、二名ずつでやってきます。ぜんぶで十名いて、みんなハートのかざりだらけです。つづいてはお客たちで、ほとんどが王さまや女王さまたちですが、アリスはそのなかにあの白うさぎがいるのを見つけました。はや口で心配そうにしゃべっていて、だれがなにを言ってもにこにこして、アリスに気がつかずにとおりすぎました。それからハートのジャックがきます。王さまのかんむりを、真紅(しんく)ビロードのクッションにのせてはこんでいます。そしてこのおもおもしい行列の一番最後に、ハートの王さまと女王さまがやってまいりました。

  アリスは、自分も庭師三名と同じようにはいつくばったほうがいいのかな、とまよいましたが、王さまの行列でそんなきそくがあるなんて、きいたことはありませんでした。「それに、もしみんなが顔を下にはいつくばって、だれも行列を見られなければ、行列なんかしたってしょうがないじゃない?」そう思ってアリスは、そのまま立って、まっていました。

  行列がアリスの向かいにやってくると、みんな止まってアリスをながめました。そして女王さまがきびしい声でききます。「これはだれじゃ!」きかれたハートのジャックは、へんじのかわりににっこりおじぎをしただけでした。

 「ばかものめが!」と女王さまは、きぜわしく何度もふんぞりかえります。そしてアリスにむかってつづけました。「そこな子ども、名前は?」

  「アリスともうします、女王陛下」とアリスはとってもれいぎ正しくもうしました。でもそのあとでこう思いました。「でも、これみんなただのトランプなんだわ。なんにもこわがることないわね!」

  「してこやつらはだれじゃ?」と女王さまは、バラの木のまわりにはらばいになっている庭師たちを指さしました。というのも、顔を下にしてはいつくばっていたし、せなかのもようはみんないっしょなので、女王さまはそれが庭師か、兵隊さんか、廷臣(ていしん)たちか、それとも自分の子どものうち三名なのか、わからなかったのです。

  「あたしにわかるわけないでしょう」アリスはこう言って、自分のゆうきにわれながらびっくりしました。「あたしにはかんけいないことですから」

  女王さまは怒ってまっ赤になり、そして野獣みたいにしばらくアリスをにらみつけてから、ぜっきょうしました。「こやつの首をちょん切れ! こやつの― ―」

  「ばかおっしゃい!」とアリスは、とても大声できっぱりと言いまして、すると女王さまはだまってしまいました。

  王さまが手を女王さまのうでにかけて、びくびくしながら言います。「まあまあ、まだ子どもじゃないか!」

  女王さまは怒って王さまからはなれ、ジャックにいいました。「こやつらをひっくりかえせ!」

  ジャックはとてもしんちょうに、片足でそうしました。

 「立て!」と女王さまが、かんだかい大声で言うと、庭師三名はすぐにとびおきて、王様と、女王さまと、お子たちと、そのほかみんなにぺこぺこおじぎをはじめました。

 「やめんか! めまいがする!」と女王さまがどなります。そしてバラの木のほうを見てつづけました。「ここでいったいなにをしておった?」

 「おそれながらもうしあげますと、女王陛下どの」と二がとてもつつましく、片ひざをついて言いました。「てまえどもがしており― ―」

  「なるほど!」女王さまは、その間にバラの木を調べておりました。「こやつらの首をちょん切れ!」そして行列がまたうごきだしましたが、兵隊さんが三名のこって、かわいそうな庭師たちの首をはねようとしますので、庭師たちはアリスに助けをもとめてかけよってきました。

  「首なんか切らせないわ!」とアリスは、近くにあったおっきな花びんに庭師たちを入れてあげました。兵隊さん三名は、一分かそこらうろうろしてさがしていましたが、だまってほかのみんなのあとから行進してきます。

  「あやつらの首はちょん切ったか!」と女王さまはさけびます。

 「あのものどもの首は消えてしまいました、女王陛下どの!」と兵隊たちがさけんでこたえました。

 「よろしい! おまえ、クロケーはできる?」

  兵隊たちはだまってアリスのほうを見ました。この質問が明らかにアリスむけだとでもいうように。

  「ええ!」とアリス。

  「ではおいで!」と女王さまがほえ、アリスは行列にまじって、これからどうなるのかな、と心から思いました。

  「いやなんとも― ―よいお天気ですな」とびくびく声がよこできこえました。となりを歩いていたのは白うさぎで、こちらの顔を心配そうにのぞきこんでいます。

 「ええとっても」とアリス。「― ―公爵夫人はどちら?」

  「これうかつなことを!」とうさぎは、小さな声ではや口にもうします。こう言いながらも、かたごしに心配そうにのぞいて、それからつま先だちになって、アリスの耳近くに口をもってきてささやきました。「公爵夫人は死刑宣告をうけたのですよ」

  「どうして?」

 「いま、『まあかわいそうに』とおっしゃいましたか?」とうさぎ。

 「いいえ、言ってませんけど。ぜんぜんかわいそうだと思わないし。『どうして?』っていったんです」

 「女王さまの横っつらをなぐったんです― ―」とうさぎが言って、アリスはゲラゲラわらってしまいました。うさぎがちぢみあがってささやきます。「ああおしずかに! 女王さまのお耳にとどきます! じつはですな、公爵夫人はいささかおくれていらっしゃいまして、女王さまがそこで― ―」

  「位置について!」と女王さまが、かみなりのような声でどなりまして、みんなあちこちかけまわりだして、おたがいにごっつんこしてばかりいます。でも、一分かそこらでみんなおちついて、試合開始です。アリスは、こんなふうがわりなクロケー場は見たこともないと思いました。そこらじゅう、うねやみぞだらけ。玉は生きたアナグマで、マレットは生きたフラミンゴ、そして兵隊さんたちがからだをおって四つんばいになって、ゲートをつくっているのです。

  アリスがまず一番くろうしたのは、フラミンゴをじっとさせておくことです。フラミンゴのからだは、なんとかうまいぐあいにうでの下におさめて、足をたらすようにしたのですけれど、でもだいたい、ちょうど首をきちんとのばさせて、その頭でアナグマをたたこうとしたとたんに、フラミンゴはぐいっと首をねじって、アリスの顔を見あげます。そしてその顔が、いかにもわけわかりませんという顔つきなので、ついふきだしてしまいます。さらに頭を下げさせて、もう一回やってみようとすると、アナグマがまるまるのをやめて、もぞもぞあっちへいってしまおうとしているので、すごく頭にきます。おまけに、アナグマをむかわせたい方向には、たいがいうねやみぞがあったし、それに四つんばいの兵隊さんたちも、しょっちゅうおきあがってはクロケー場のよそにうろうろしています。アリスはじきに、こいつはじつにむずかしいゲームだぞ、という結論にたっしました。

  参加者たちはみんな、順番をまったりしないで、いっぺんに玉をうっていて、そのあいだずっといいあらそっては、アナグマをとりあってけんかしてます。そしてじきに女王さまはカンカンに怒って、そこらじゅうズシズシうろついては、「あやつの首をちょん切れ!」だの「こやつの首をちょん切れ!」だの一分に一度くらいはわめいています。

 アリスはとってもいやーな気持ちになってきました。そりゃたしかに、自分はまだ女王さまとはもめていませんけれど、でもそれがすぐにでもおきかねないのはわかります。「そうなったらあたし、どうなっちゃうの? ここではみんな、首切りが大好きなんだもの。まだ生きてる人がいるほうが不思議ってもんだわ!」

  アリスは、なんとかにげだすほうほうはないか、さがしていました。見られずににげられないものかと思っているところへ、宙に変なものがあらわれているのに気がつきました。最初はとっても首をひねりましたが、一分かそこらながめていると、それがニヤニヤわらいだとわかりました。「あら、チェシャねこだわ。これでお話相手ができた」

  「ちょうしはどうだい」ねこは、しゃべれるだけのものがあらわれたとたんに言いました。

 アリスは、目があらわれるまでまってから、うなずきました。「両耳が出てからじゃないと、話してもむだね。片耳でもいいけど」一分かそこらで、頭がぜんぶあらわれたので、アリスはフラミンゴをおいて、試合のようすを話しだしました。ねこは、もうじゅうぶんにあらわれたと思ったらしくて、頭から先はもう出てきませんでした。

  「ぜんぜん公平にやってないと思うわ」とアリスは、ちょっとぐちっぽくきりだしました。「それにみんな、ものすごくけんかばかりで、自分の声もきこえやしない― ―それにルールがぜんぜんないみたいなの。あったとしても、だれもそんなのまもってないわ― ―それに、なんでもかんでも生きてるから、もうすっごくややこしいのよ。たとえばあそこ、あたしがこんどくぐるはずのアーチは、クロケー場のむこっかわのはしをウロウロしてるし― ―それにいまは女王さまのアナグマにあてるはずが、あたしのアナグマを見たら、にげだしちゃったんだから!」

  「女王さまは気にいった?」とねこは小声でききました。

  「ぜーんぜん」とアリス。「だってすごく― ―」ちょうどそこで、女王さまがすぐうしろにいて、きき耳をたてているのに気がつきました。そこでつづけます。「― ―おじょうずで、勝つにきまってるんですもの、試合を最後までやるまでもないくらい」

  女王さまはにっこりして、よそへいってしまいました。

  「だれと話をしとるのかえ?」と王さまがアリスのところにやってきて、ねこの頭をとても不思議そうにながめました。

 「あたしのお友だちでございます― ―チェシャねこなんですよ。しょうかいさせていただけますか」

 「どうもようすがまるで気にいらん」と王さま。「しかし、のぞみとあらば、わが手にせっぷんを許してつかわす」

 「やめとく」とねこ。

  「失敬なことを! それと、わしをそんな目で見るな!」と王さまは、アリスのうしろにかくれてしまいました。

  「ねこだって王さまを見るくらいはできる。どっかでそう読んだんですけれど、どこでかはわすれました」とアリス。

 「ふん、こやつはここにいてはまかりならん」と王さまはとてもきっぱりもうしまして、ちょうどとおりすがりの女王さまによびかけました。「妻や! おまえ、このねこをどうにかしてもらえんかね?」

  女王さまは、問題があればその大小をとわず、解決法は一つでした。「首をちょん切れ!」とまわりを見もしないで申します。

  「わしみずから首切り役人をつれてまいるとしよう」と王さまはうれしそうに言って、いそいで出かけました。

  アリスは、いまのうちにもどって試合のようすを見てみよう、と思いました。女王さまが、カッカしてわめきちらしているのが遠くできこえたからです。順番をのがしたせいで、参加者が三名、もう死刑にされたのがきこえたし、試合はもうめちゃくちゃで、自分の順番かどうかぜんぜんわからなかったので、これじゃなんだかまずいぞ、と思いました。そこで自分のアナグマをさがしにでかけました。

 アナグマはべつのアナグマとけんかのまっさいちゅうで、だからアナグマどうしをぶつけるにはぜっこうのチャンス、とアリスは思いました。ただ一つ困ったことに、フラミンゴがお庭のむこう側にいってしまっていて、そこでアリスが見たところ、木にとびあがろうとして、むだにがんばっています。

 フラミンゴをつかまえてもどってきたころには、アナグマのけんかも終わっていて、二匹ともいなくなっていました。「でもどうでもいっか。クロケー場のこっち側は、ゲートがぜんぶいなくなっちゃってるし」そう思ってアリスは、フラミンゴがまたにげださないように、うでの下にしっかりとかかえて、お友だちともっとおしゃべりしようと、もどっていったのです。

  チェシャねこのところにもどってみると、まわりにかなりおっきな人ごみができていたのでおどろきました。首切り役人と王さまと女王さまが、論争(ろんそう)をしています。三名は同時にしゃべっていますが、それ以外はみんなだんまりで、すごくもじもじしています。

 アリスがすがたを見せたとたん、その三名がいっせいに自分の意見をうったえてきて、問題を解決してくれ、といいます。そして三名とも自分の言いぶんをくりかえすのですが、みんな同時にしゃべるので、いったいそれぞれなにを言ってるのか、きちんと理解するのは、とてもたいへんでした。

  首切り役人の言いぶんは、首を切りおとすには、まずその首がどこかのからだにくっついていなくちゃダメだ、というものです。首だけの首を切りおとすなんて、いままでやったこともないし、だからいまさらこの歳(とし)になってはじめるつもりもないよ、と言います。

  王さまの言いぶんは、首がそこにあるんだから、それを切りおとすだけのことでなんの問題もない、へりくつをもうすな、というものでした。

  女王さまの言いぶんは、いますぐなんとかしないと、みんな一人のこらず死刑にしてやる、というものでした(この最後のことで、みんなあんなに困って不安そうだったのです)。

 アリスとしてはなんと言っていいかわかりませんでした。「あれは公爵夫人のものだわ。だから公爵夫人におききになったほうがいいわよ」

 「あやつはろうやにおるぞ。つれてまいれ」と女王さまが首切り役人にもうしますと、役人は矢のようにびゅーんととんでいきました。

  役人がいってしまったとたんに、ねこの頭は消えだしまして、公爵夫人をつれて役人がもどってきたころには、もう完全に消えてしまいました。だから王さまと役人はあちこちかけずりまわって、必死でねこをさがし、ほかのみんなは試合にもどっていきました。



9. にせウミガメのお話

  「またお目にかかれてどんなにうれしいか、あなた見当もつかないでしょう、このかわいいおじょうちゃんったら!」と公爵夫人は、愛情(あいじょう)たっぷりにアリスにうでをからめてきて、二人は歩きだしました。

 夫人がずいぶんごきげんうるわしいので、アリスはとてもうれしく思いました。そして台所であったときにあんなにあれ狂ってたのは、コショウのせいでしかなかったのかも、と思いました。

  「あたしが公爵夫人になったら」とアリスはつぶやきました(が、自分でもあまり見こみあるとは思ってなかったけど)「台所にはコショウなんか、ぜーんぜんおかないんだ。スープはコショウなしでもじゅうぶんおいしいもの― ―人がカッカしちゃうのは、みんなからいコショウのせいなのかも」アリスは、新しい規則みたいなものを見つけたので、とても得意になってつづけました。「それでみんながにがにがしくなるのはサンショウのせいなんだ― ―しぶくなるのは、茶しぶのせいで― ―それで― ―それで子どもがニコニコしてるのは、おさとうとかのせいで。みんながこれをわかってくれればいいのに。そうしたら甘いもの食べすぎてもあんなに怒らないだろうし― ―」

  おかげですっかり公爵夫人のことをわすれてしまっていたので、耳のすぐ近くで声がきこえてちょっとびっくりしてしまいました。「なにか考えごとをしていたでしょう、それで口がおるすになるんですよ。その教訓がなんだか、いまは話せないけれど、しばらくしたら思いだしますからね」

 「教訓なんかないんじゃありませんか?」アリスは勇気を出して言ってみました。

 「これこれ、おじょうちゃん。どんなことにも、教訓はあるですよ、見つけさえすれば」こう言いながら、夫人はアリスの横にもっとギュッと身をよせてきました。

 アリスは、夫人とこんなにくっついているのは、あんまり気に入りませんでした。まず、公爵夫人はすっごくブスだったからで、さらにちょうどあごがアリスのかたにのっかるせたけで、しかもいやんなるくらいすごくとがったあごだったからです。でも、失礼なことはしたくなかったので、なるべくがまんすることにしました。

  「試合はちょっとましにすすんでるようですね」とアリスは、間をもたせようとして言いました。

 「いやまったく」と公爵夫人。「してその教訓は― ―『ああ、愛こそが、愛こそがこの世を動かす!』」

  「だれかさんは、みんなが自分のやることだけ気をつけてりゃ動くって言ってませんでしたっけ」とアリスはささやきました。

 「ああそうでしたっけ。でも言ってることはまあ同じですよ」そう言いつつ、夫人はとがったあごをアリスのかたにつきさします。「そしてその教訓は― ―『安言(やすごと)づかいの意味(いみ)うしない』」

 「教訓さがしが、ほんっとに好きなのねえ」とアリスは思いました。

  夫人はちょっと間をおいて言いました。「ひょっとして、わたしがなぜおじょうちゃんのこしに手をまわさないのかな、と思ってるんでしょう。そのわけはね、そのフラミンゴがかみつくんじゃないかって、ちょっと心配なのよ。ちょっと実験してみましょうか?」

  「ずいぶんピリピリしてますよ、このフラミンゴ」アリスは不安そうにこたえました。そんな実験をためしてほしいとは、これっぽっちも思いません。

 「おっしゃるとおり」と公爵夫人。「フラミンゴとカラシはどっちもピリピリしてますからねえ。そしてその教訓は― ―『たつ鳥あとをにごさず』」

  「ただカラシは鳥じゃないでしょう」とアリス。

 「いつもながら、おっしゃるとおり」と公爵夫人。「なにごともそうやって、ちゃーんとせいとんできてるのねえ」

  「たしか鉱物(こうぶつ)だったと思うけど」とアリス。

 「もちろんさよう」公爵夫人は、いまではアリスが言うことならなんでもさんせいするみたいです。「このあたりの山では、カラシをいっぱいほってますわよ。そしてその教訓は― ―『権兵衛(ゴンベ)が山ほりゃ、カラシをほじくる』」

 アリスはいまの夫人のせりふをきいていませんでした。「あ、わかった! あれは植物よ! ちっとも植物らしくないけれど、でもそうよ」

  「いやはやまったくそのとおり。そしてその教訓とは― ―『自分らしくなろう』― ―あるいはもっとかんたんに言えば― ―『自分がそうであったりそうであったかもしれないものが、自分が他人にそうでないと思われたものでないもの以外のものとして見られるもの以外のものでないと思わないこと』訳者のおねがい:論理的にこれであってるかどうか自信がないので、だれかチェックしてほしいんだけど。

 「いまのは、かみに書いたらもっときちんとわかると思いますけれど、でもそうやっておっしゃっただけだと、なかなかついてけませんでした」アリスはとてもれいぎ正しく言いました。

  「わたしがその気になったら、いまのなんかメじゃないですよ」と公爵夫人は、うれしそうに返事しました。

 「おねがいだから、いまよりながく言おうとなんかなさらないで、お手間でしょうから」とアリス。

  「おやまあ、手間だなんてとんでもない!」と公爵夫人。「これまで申し上げたことはすべて、プレゼントとしてさしあげますですわよ」

 「ずいぶん安上がりなプレゼントですこと!」とアリスは思いました。「おたんじょう日のプレゼントがそんなのでなくてよかったわ!」でもこれはもちろん口には出しませんでした。

  「また考えごと?」と伯爵夫人は、またまたあごでつついてきます。

 「あたしにだって考える権利があります!」アリスはきっぱりといいました。だんだん心配になってきたからです。

 「ちょうどぶたに空とぶ権利があるように。そしてそのきょうく― ―」

  でもここで、アリスがとってもおどろいたことに、公爵夫人の声がとぎれました。大好きな「教訓」ということばのどまんなかだったのに。そしてアリスのにからめたうでが、ガタガタふるえはじめました。目をあげると、まんまえに女王さまが立っていて、うで組みして、かみなり嵐みたいなしかめっつらをしています。

  「なんともすばらしいお天気でございます、陛下!」公爵夫人が、小さなよわよわしい声で言いかけました。

  「さぁて、きちんと警告を出してやろうぞ」と女王さまは地面をふみならしてどなります。「おまえか、おまえの頭のどちらかが消えうせるのじゃ、しかもいますぐに! すきなほうを選ぶがよい!」

 公爵夫人はすきなほうを選んで、いっしゅんですがたを消しました。

 「試合を続けるがよいぞ」女王に言われたアリスは、おっかなくて一言もいえずに、だまって女王さまについてクロケー場にもどりました。

  ほかのお客たちは、女王さまがいないのをいいことに、ひかげで休んでいました。でも、すがたが見えたとたんに、あわてて試合にもどりました。女王さまが、一刻でもおくれたらいのちはないよ、ともうしわたしただけなのに。

 みんなの試合中、女王さまはずっとほかのプレーヤーたちといいあらそってばかりいて、「あやつの首をちょん切れ!」だの「こやつの首をちょん切れ!」だのとどなっています。女王さまに死刑せんこくされた人たちは、兵隊さんたちに連行(れんこう)されるのですが、するとその兵隊さんは、ゲート役をやめなくてはならず、そしてプレーヤーたちも王さまと女王さま、そしてアリス以外はみんな連行(れんこう)されて、死刑の宣告をうけていたのでした。

  すると女王さまは、かなり息をきらして試合の手をとめて、アリスにこう申しました。「おまえ、にせウミガメには会ったかえ?」

  「いいえ。にせウミガメってなんなのかも知りません」

  「にせウミガメスープの材料になるものじゃ」と女王さま。

 「見たことも、きいたこともございません」とアリス。

 「ではおいで。あやつが身の上話をしてくれるであろう」

 二人がつれだって歩き出すと、王さまが小さな声でそこにいた全員にむかって、こうもうしわたすのが聞こえました。「みなの者、刑(けい)は免除(めんじょ)してつかわす」

 「わーい、それはすてき!」とアリスは思いました。女王さまが命じた処刑(しょけい)が多すぎて、ずいぶんいやーな気持ちだったからです」

  まもなく、二人はグリフォンに出くわしました。ひなたぼっこをしながら、ぐっすりねむっています(もしグリフォンってなんだか知らなかったら、イラストを見てね。) 起きんか、このぐうたらめが!」と女王はもうします。「このわかいご婦人をつれて、にせウミガメのところであやつの身の上話をきかせてやるのじゃ。わしはもどって、めいじた処刑(しょけい)をいくつか監督せねばならんのでな」そして歩みさって、アリスとグリフォンは二人きりになりました。アリスは、この生き物のようすがあんまり気に入りませんでしたが、いろいろ考えても、あの荒(あら)っぽい女王さまについてくよりは、グリフォンといっしょのほうが安全だろうと思いました。

  グリフォンはおきあがって、目をこすりました。それから女王さまがみえなくなるまでながめて、それからくすくすわらいます。そして「たのしいねえ」と、半分自分に、半分アリスにいいました。

 「たのしいって、なにが?」とアリス。

  「え、女王さんだよ。あれってみんな、女王さんの『ごっこ』なのね。だれも処刑(しょけい)なんかされないんだよ。おいで!」

 「ここじゃみんな、『おいで!』ばっかり。こんなに命令ばっかされたことってないわ、いちども!」そう思いながらも、アリスはゆっくりついていきました。

  ほどなく、にせウミガメが遠くに見えてきました。いわのちょっとしたふちのところに、かなしくさびしそうにすわっています。近くにくると、それがむねのはりさけそうなため息をついているのがきこえます。まあほんとうにかわいそう、とアリスは思いました。「なにがあんなにかなしいの?」とアリスがグリフォンにたずねますと、グリフォンはほとんどさっきと同じせりふでこたえました。「あれってみんな、あいつの『ごっこ』なのね。あいつはぜんぜんかなしくなんかないんだよ。おいで!」

  そこで二人はにせウミガメにところにやってきました。にせウミガメは、おっきな目に涙をいっぱいうかべてこっちを見ましたが、なんにも言いません。

 「このおじょうちゃんがさ、おまえの身の上話をききたいって、とかなんとか」とグリフォン。

 「話してあげるわよ」とにせウミガメは、ふかくうつろな声でいいました。「二人とも、おすわんなさい。ぼくが話しおえるまで、ひとことも口きくんじゃないよ」

  そこで二人はすわり、しばらくはだれもなにも言いませんでした。アリスは思いました。「話しはじめなかったら、いつまでたっても話しおえるわけないのに」でも、おとなしく待ちました。

  「むかしは、ぼくもほんもののウミガメでしたのさ」にせウミガメはやっと口をひらきました。

  このことばのあとには、とってもながーいだんまりがつづきました。それをやぶるのは、ときどきグリフォンのたてる「ヒジュクルル!」とかいうしゃっくりと、にせウミガメがずっとたててる、めそめそしたすすり泣きだけでした。アリスはほとんどたちあがって「ありがとうございました、とってもおもしろいお話でした」と言うところでしたが、ぜったいにあれだけってはずはないと思ったので、じっとすわってなにも言いませんでした。

  やっとこさ、にせウミガメが先を話しはじめました。ちょっとは落ち着きましたが、まだときどきちょっとすすり泣いてます。「小さいころは、海中学校に行ったんですよぅ。校長先生は、おばあさんガメで― ―ぼくたちは、オスガメってよんでけど― ―」

  「どうしてメスなのにオスガメなの?」とアリス。

  「すが目だったからに決まってるではないの、だからおすがめ」とにせウミガメは怒ったように言いました。「あんたバカァ?©ガイナックス」

 「まったくそんなかんたんなこときいたりして、恥ずかしくないのかよ」とグリフォンがつけたして、二匹ともだまってすわったまま、かわいそうなアリスを見つめましたので、アリスはこのまま地面にしずんで消えてしまいたい気分でした。ようやくグリフォンがにせウミガメに申しました。「つづけろよ、だんな。日がくれちまうぜ」そこでにせウミガメはこうつづけました。

  「うん、ぼくらは、海の中の学校にいったのよ、信じないでしょうけど― ―」

 「信じないなんて言ってないでしょう!」とアリスが口をはさみます。

 「言ったね」とにせウミガメ。

 「いいからだまって!」アリスが言いかえすより先に、グリフォンがわりこみました。にせウミガメがつづけます。

  「最高の教育をうけてねぇ― ―もうまいにち学校にかよったくらいで― ―」

  「あたしだって学校くらいかよったわ。そんなにじまんすることでもないでしょ」訳者の説明:これはむかしのお話なので、学校はいまとちょっとちがう。いまはみんな学校にいくけれど、むかしはお金持ちしか学校になんかいかなかったんだ。だから学校にいった、というのはけっこうじまんできることだったんだよ。

 「追加で選べる科目もあった?」とにせウミガメはちょっと不安そうにききます。

 「ええ。フランス語と音楽」

 「せんたくも?」とにせウミガメ。

 「あるわけないでしょう!」アリスはプンプンして言いました。

 「ああ、じゃああなたのは、ほんとのいい学校じゃなかったのよ」とにせウミガメは、すごくほっとし

たような口ぶりです。「だってうちの学校では、請求書の最後んとこに『フランス語、音楽、およびせ

んたく― ―追加』ってあったもの」

訳者の説明:イギリスの学校は私立ばっかりで、毎月かそこら、学校から授業料の請求書がくるのがあたりまえだったわけ。それで、それは科目ごとにお金がとられるようになっていて、フランス語とか、音楽は、追加でお金をはらわなきゃダメだったんだよ。いまの塾(じゅく)みたいなものだと思ってね。

 ついでに言っておくと、せんたくが追加料金なのは、別にせんたくという授業があるからじゃなくて、生徒がずっと学校に寝泊まりする寄宿学校では、洗濯物を学校におねがいすることができたということ。だから請求書には、ほんとうに「せんたく」というのはあったんだけれど、でもそれは授業じゃあないんだ。

  「でもおせんたくなんてあんまりいらないでしょう。だって海のそこに住んでるんだもん」

 「だから選べたのよ、これがホントのせんたく科目。でもうちはお金がなくて、せんたくはとれなかったのよ。ふつう科目だけ」とにせウミガメは、ためいきまじりで言います。

 「ふつう科目って?」とアリス。

 「もちろんまずは、獄語と惨数ね」とにせウミガメ。「惨数もいろいろで、打算とか、安産とか、あと美化(りか)に醜怪化(しゃかいか)もね」

 「『醜怪化』ってきいたことないけど、なんなの?」アリスはゆうきを出してきいてみました。

 グリフォンは、びっくりして両まえ足をあげました。「なんだと! 『醜怪』をきいたことがないだと! おまえ、さすがに『美化』のほうくらいはわかるよな?」

 「ええ」とアリスは、自信なさそうにこたえました。「それは― ―つまり― ―いろんなものを― ―その― ―きれいに?― ―すること?」

 「ふん、それがわかってるんなら、それで醜怪化(しゃかいか)がわかんないんなら、おまえってホンっトの大バカもんだぞ」

 それ以上はきかないほうがいいぞと思ったので、アリスはにせウミガメに言いました。「ほかにはどんなお勉強をしたの?」

  「えーと、溺死(れきし)でしょ」とにせウミガメは、ひれで科目をかんじょうしていきます。「― ―溺死、古代死と現代死ね。それと、致死学、それから頭蓋絞殺(ずがこうさく)― ―絞殺の先生は、年寄りのヤツメウナギで、週に一度だけくんの。この先生は、アリバイ工作に上告(ちょうこく)がとくいだったのよぅ。出血がホントにきびしくてねぇ」

 「ちゃんと出たんですか?」とアリス。

 「ぼくはあんまり。ウロコが硬くて血が出にくいもん。それにグリフォンはとってないし」

 「時間がなくてよ。でもおれ、惨数の上級はとったぜ。先公がすんごいタコおやじ。いやまったく」とグリフォンが言います。

  「ぼくはその先生には教わってないけど」とにせウミガメがため息をつきました。「でも話によると、教えてたのが悲っ惨(ひきざん)だってねぇ」

 「ああそのとおり、そのとおり」とグリフォンもためいきをついて、生き物は両方とも顔を前足でおおってしまいました。

  「じゃあどういう時間割(じかんわり)になってたの?」アリスはあわてて話題を変えようとしました。

  「最初の日は十コマあるのよ」とにせウミガメ。「つぎの日が五コマ、そのつぎは三コマってぐあい」

 アリスはびっくりしてしまいました。「ずいぶんへんな時間割(じかんわり)ねえ!」

 「え、そのまんまじゃん。時間を割ってるんだよ。日ごとに割ってくわけ」とグリフォン。

  これはアリスにしてみれば、なかなか目新しいアイデアでしたので、口をひらくまえに、よっく考えてみました。「じゃあ、十日目には一コマだけだったはずね?」

 「もちろんそのとおりよ」とにせウミガメ。

 「じゃあ、十一日目からあとはどうしたの?」アリスはねっしんにつづけます。

 でもグリフォンがきっぱりといいました。「時間割(じかんわり)はもうたくさん。こんどはこの子に、おゆうぎの話をしてやんなよ」



10. ロブスターのカドリーユおどり

  にせウミガメはふかいためいきをついて、ひれの一つで目をおおいました。そしてアリスを見て話そうとするのですが、そのたびにすすり泣きがでて、一分かそこらは声がでません。「のどに骨がつかえたときといっしょだよ」とグリフォンは、にせウミガメをゆすったり、背中をたたいたりしはじめました。やっとにせウミガメは声が出るようになって、ほっぺに涙をながしながら、またつづけました。

  「あなた、海のそこにはあんまり住んだことがないかもしれないし― ―」(「ないわ」とアリス)― ―「あとロブスターに紹介されたこともないようねぇ― ―」(アリスは「まえに食べたことは― ―」と言いかけて、すぐに気がついて、「いいえ一度も」ともうしました)「― ―だから、ロブスターのカドリーユおどりがどんなにすてきか、もう見当もつくわけないわね!」

 「ええ、ぜんぜん。どういうおどりなんですか?」とアリス。

 グリフォンがいいました。「まず海岸にそって、一列になるだろ― ―」

 「二列よ!」とにせウミガメ。「アザラシ、ウミガメ、シャケなんか。それでクラゲをぜんぶどかしてから― ―」

 「これがえらく時間をくうんだ」とグリフォンが口をはさみます。

 「― ―二回すすんで― ―」

  「それぞれロブスターがパートナーね!」とグリフォンもわめきます。

 「もちろん。二回すすんで、パートナーについて― ―」

  「― ―ロブスターを替えて、同じように下がる」とグリフォンがつづけます。

 そしてにせウミガメ。「そしたら、ほら、ロブスターを― ―」

  「ほうりなげる!」とグリフォンがどなって、宙にとびあがりました。。

 「― ―沖へおもいっきり― ―」

 「あとを追っかけて泳いで!」とグリフォンぜっきょう。

 「海の中でとんぼがえり!」とにせウミガメ、こうふんしてぴょんぴょんはねてます。

 「またロブスターを替える!」グリフォン、ほとんどかなきり声。

 「陸にもどって最初の位置にもどるのねぇ」とにせウミガメが、いきなり声をおとしました。そして生き物二匹は、さっきまで狂ったみたいにはねまわってたのに、またとってもかなしそうにしずかにすわって、アリスを見ました。

 「とってもきれいなおどりみたいね」アリスはおずおずと言いました。

  「ちょっと見てみたい?」とにせウミガメ。

 「ええ、ぜひ」

 「よーし、じゃあ最初のところ、やってみましょうか」にせウミガメがグリフォンにいいました。「ロブスターなしでもなんとかなるわね。どっちがうたう?」

  「ああ、おまえがうたってくれよ。おれ、歌詞(かし)わすれちゃった」

 そこで二匹は、まじめくさってアリスのまわりをおどりだし、ときどき近くにきすぎてアリスのつま先をふんずけて、ひょうしをとるのに前足をふって、そしてにせウミガメはこんな歌を、とってもゆっくりかなしそうにうたったのでした:

*     *     *     *     *

「『もっとさっさと歩いてよ』とスケソウダラがウミウシに。

『ヤリイカうしろにせまってて、ぼくのしっぽをふんでるの。

ロブスターとウミガメが、あんなにいそいそ進んでる!

みんな砂利浜で待ってるし― ―あなたもおどりに入ろうよ!

入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり

入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり

みんながぼくらをつかまえて、ロブスターと海へ投げ出す!

どんなにたのしいことなのか、あなたはたぶんわからない!』

なのにウミウシ横目でにらみ、『遠すぎ、遠すぎ!』と申します― ―

スケソウダラさんありがとさん、だけどおどりにゃ入りません

入らん、入れん、入らん、入れん、入らん、入れん、おどりには

入らん、入れん、入らん、入れん、入らん、入れん、おどりには

『遠くたっていいじゃない!』と、うろこの友だちこたえます。

『世界は浜辺に満ちている。こちらじゃなければあちらにも

イギリス浜からはなれるごとに、フランス浜辺に近くなる― ―

だからいとしいウミウシさん、青ざめないでおどろうよ。

入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり

入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、入ろう、おどろう、ぼくらのおどり』」

*     *     *     *     *

 「どうもありがとう、見ててとってもおもしろいおどりでした」アリスはそれがやっと終わってくれて、じつにホッとしました。「それにあの、スケソウダラのふうがわりな歌も、すごく気に入りました!」

  「ああ、スケソウダラといえば、もちろん見たことあるのよねぇ」とにせウミガメ。

 「ええ、しょっちゅう出てくるもの、ばんご― ―」アリスはあわてて口を閉じました。

 「バンゴってどこだか知らないけど、そんなによく見かけてるなら、どんなかっこうかも知ってるわよねぇ」とにせウミガメ。

 「ええたぶん。しっぽを口にくわえてて― ―それでパン粉まみれ」アリスは考えこんでいいました。

  「パン粉はちがうわぁ。パン粉は海で洗い流されちゃうでしょ。でもたしかに、しっぽは口にくわえてるよね。なぜかというと― ―」ここでにせウミガメはあくびをして目をとじた。― ―「この子に理由とか、説明してやんなさいよぅ」とグリフォンをせっつきます。

  「理由はだねえ、やつら、ロブスターとホントにおどりにいくんよ。それで海にほうりなげられるだろ。だからずいぶん落っこちるわけね。それでもうしっぽをまいちゃうわけ。するとそれが口に入る。するともう、それが出てこなくなる。おしまい」

 「ありがと。それはおもしろいわね。スケソウダラのこと、こんなにはじめて知ったわ」

 グリフォンが言いました。「じゃあもっと話してやろうか。なんでスケソウダラっていうか知ってる?」

  「考えたことない。どうしてなの?」とアリス。

 「せんたくするんだよぉ」とグリフォンは、とってもおもおもしい返事をします。

  アリスはまるっきりわけがわかりません。「おせんたく、をする!」と不思議そうにくりかえすばかり。

  「しょうがねえなあ、じゃああんたの服はどうあらうの? どうやってそんな、まっ白きれいになるの?」

 アリスは自分の服を見おろして、ちょっと考えてから口をひらきました。「洗剤、だと思うけど。『透明感あふれる白さです』って」

 「海のそこのせんたくは、スケソウダラがやんの。『きれいすぎて、すけそうダラ(だわ)!』ってね。これで一つ、かしこくなったろう」

  「でもどこでかわかすの?」アリスはすごく不思議におもってききました。

 「たたみいわしの上だよう、きまってるじゃん。そこらのエビでもそんくらいは知ってるぜ」グリフォンはいささかあきれたようです。

  アリスはまださっきの歌のことを考えてました。「あたしがスケソウダラなら、ヤリイカにこう言ったと思うな。『下がってくれませんか? あなたにはついてきてほしくありませんの!』」

 「うんたしかにヤリイカなんかぜったいにつれてかないわよねぇ」とにせウミガメ。「まともなさかななら、ヤリイカとつきあったりはしないもの」

  「あら、そういうものなの?」アリスはとってもおどろいていいました。

  「あたりまえだよ。もしぼくがおでかけするときに、どっかのさかながきて『おでかけですか』なんてきいたら、ぼく言っちゃうよ。『うるせーな、ヤリィカ!』って!(訳注:うるさいうるさい、苦しいのはわかってるんでぃ!)」

 「… …それって『わりぃか』ってこと?」とアリス。

  「ぼくがそうだと言ったらそうなのよ」とにせウミガメは、ちょっとむっとした口ぶりで言いました。そしてグリフォンがつづけます。「さあ、あんたの冒険をちょっときかせてもらおうじゃないの」

  「あたしの冒険っていうと― ―けさからのなら話してあげられるけど」アリスはちょっとおずおずと言いました。「でもきのうまでもどってもしかたないわ、だってそのころはあたし、別の人だったから」

  「いまの、なんのこったか説明しなさい」とにせウミガメ。 グリフォンがうずうずして言います。「だめだめ、冒険が先。説明ってのは、ありゃえらく時間がかかるんだ」

 そこでアリスは、白うさぎを見たところから自分の冒険の話をはじめました。最初はちょっと不安でした。だって二匹の生き物がすっごく近くによってきて、アリスの左右について、お目目とお口をすんごくひらいていたからです。でも、先にすすむうちに、ゆうきが出てきました。きき手はずっとなにも言いませんでしたが、いもむしに『ウィリアム父さんお歳をめして』を暗唱して、ことばがぜんぶちがって出てきたところにくると、にせウミガメが思いっきり息をすいこんで言いました。「それはじつにおもしろいわぁ」

 「うん、なにもかもすっごくおもしろい」とグリフォン。

 「ぜんぶちがって出てきたのねぇ」とにせウミガメは考えこんでくりかえします。「ぼく、この子がここでなにか暗唱するのをきいてみたいわ。やれって言ってやってよ」とにせウミガメはグリフォンのほうを見ました。まるでグリフォンがアリスに命令する力があるとでも思ってるみたいです。

 「立って『不精者(ぶしょうもの)の宣言』を復唱するんだ」とグリフォン。

 「まったくここの生き物って、人に命令してばかりで、お勉強の復習ばかりさせるんだから。いますぐ学校にもどったほうがましかも」でもアリスは立ちあがって復唱をはじめました。でも頭がロブスターのカドリーユおどりでいっぱいだったので、自分がなにを言ってるのかまるでわからず、おかげでことばもずいぶんへんてこになっちゃったのです。

*     *     *     *     *

「ロブスターの宣言を、わたしが聞いたところでは

『わしはこんがり焼かれすぎ、髪に砂糖をまぶさなきゃ』

アヒルがまぶたでするように、ロブスターは鼻ヅラで

ベルトとボタンを整えて、つま先そとに向けまする」

「砂がすっかりかわいたら、ヒバリまがいに大ごきげん

サメを小ばかにしてまわる

でも潮がみちてサメがくりゃ

声はおびえてふるえます。」

*     *     *     *     *

 「おれが子どものころに暗唱したのとは、ちがってるなあ」とグリフォン。

  「うん、ぼくははじめてきくけど、でもわけわからないデタラメにしかきこえないわよ」とにせウミガメ。

  アリスはなにも言いませんでした。すわって、顔を両手でおおって、もうこの先二度と、なにもふつうにはおきないのかしら、と考えていました。

  「説明してもらえないかしらぁ」とにせウミガメ。

 「説明できないよ、この子」とグリフォンがいそいで言います。「つぎんとこ、やってごらん」

  「でもつま先はどうなるのぉ? だってロブスターが、どうやったらそれを鼻でそとに向けるのぉ、ねえ?」

  「おどりの最初のポジションよ」とアリスは言いました。が、なにもかもとんでもなく頭がこんがらがっていて、話題を変えたくてしかたありませんでした。

  「つぎんとこ、やってごらん」グリフォンが、まちきれないようすで言いました。「出だしは『とおりすがりにそいつの庭で』だよ」

 アリスはとてもさからったりできませんでしたが、でもぜったいにぜんぶめちゃくちゃになるな、と思ったので、ふるえる声でつづけました:

*     *     *     *     *

「とおりすがりにそいつの庭で、わたしが片目で見たことにゃ

ヒョウとオウムがパイをわけ― ―

ヒョウがたべたはパイ皮、肉汁と肉

オウムの分け前、お皿だけ。

パイがおわるとおなさけに

オウムはおさじをもちかえり

ヒョウはうなってナイフとフォーク

夕餉(ゆうげ)のしめは、あわれな― ―」

*     *     *     *     *

 「こんなの暗唱してもらってどうしろってゆーの?」とにせウミガメが口をはさみます。「とちゅうで説明してくれなきゃ! ぼくがこれまで聞いた中で、一番わけわからんしろものだわ!」

  「うん、そのくらいにしとこうね」とグリフォンが言って、アリスはよろこんでそれにしたがいました。

  グリフォンがつづけます。「ロブスターのカドリーユおどりを、べつのやりかたでやろうか? それともにせウミガメに歌をうたってほしい?」

 「ああ、歌がいいです、おねがい、にせウミガメさんさえよろしければ」アリスのへんじがあまりに熱心だったので、グリフォンはちょっと気を悪くしたようです。「ふん、まあいろんなしゅみの人がいるからね! おいだんな、この子に『ウミガメスープ』をうたってやってくんない?」

  にせウミガメはふかいためいきをつくと、ときどきすすり泣きでつっかえる声で、こんな歌をうたいだしました:

*     *     *     *     *

「みごとなスープ、みどりのどろどろ

あつあつおなべでまっている!

だれでものりだすすてきな美食!

ゆうべのスープ、みごとなスープ

ゆうべのスープ、みごとなスープ

みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!

みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!

ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!

みごとなみごとなスープ!」

「みごとなスープ!

さかなもおにくもサラダもいらぬ!

二ペンスほどのみごとなスープ

でだれもがすべてをなげだしましょう!

みごとなスープが一ペンス!

みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!

みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!

ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!

みごとなみぃごとなスゥゥゥゥプ!」

*     *     *     *     *

「さあ、サビをもう一度!」とグリフォンがさけんで、にせウミガメがちょうどそれをくりかえしはじめたとき、遠くのほうで「裁判がはじまるぞ!」とさけびがきこえました。

  「おいで!」とグリフォンは、アリスの手をひいて、歌の終わりをまたないで、かけだしました。

  「なんの裁判なの?」アリスはきれぎれの息でききました。でもグリフォンは「おいで!」と言うだけでもっとはやく走りだして、にせウミガメのかなしそうな声は、背中からのそよ風にのって、ますますかすかにきこえてくるだけとなりました:― ―

「ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ

みごとなみごとなスープ!」



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